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札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)5066号 判決

原告

黒田孝之

被告

真庭広

主文

一  被告は、原告に対し、金一一四九万九八九一円と内金一〇四九万九八九一円に対する昭和五七年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二〇七〇万三四三七円及び内金一九七〇万三四三七円に対する昭和五七年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年一〇月二五日午後一時二〇分頃

(二) 場所 札幌市豊平区月寒東一条五丁目

(三) 加害車両 普通乗用自動車(札五六ふ一四九二号)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害者 原告

(六) 態様 被告が本件加害車両を運転して、本件事故現場にさしかかつた際、停車中の車両の前方から横断しようとした原告に衝突した。

(七) 結果 原告は本件事故のため、右股間節脱臼、右大腿骨々折の傷害を受け、近藤整形外科医院で次のとおり治療を受けた。

(1) 昭和五四年一〇月二五日から昭和五五年一月二三日まで入院(九一日間)

(2) 昭和五五年一月二五日から昭和五六年八月一七日まで通院(実日数三一日間)

2  責任原因(自動車損害賠償保障法三条)

被告は本件事故当時本件加害車両を保有し、自己の運行の用に供していたものであるから、原告の後記損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 入院諸雑費 金七万二八〇〇円(八〇〇円×九一日)

(二) 逸失利益 金一九六二万〇三六〇円

原告は本件事故による前記各傷害により、右大腿中央部が屈曲変形して右下肢が三センチ短縮したため、正常な歩行・運動ができず、昭和五六年一〇月二六日前記病院において跛行の後遺症診断を受けた。右後遺症は自動車損害賠償保障法施行令二条後遺障害別等級表一〇級に相当し、その労働能力を二七パーセント喪失したところ、原告は右後遺症診断を受けた当時満一〇歳であり、右後遺症は就労可能年数四九年間残存するので、その期間の逸失利益を昭和五六年度男子平均賃金センサスに基づいて計算すると左記のとおり金一九六二万〇三六〇円となる。

年間所得三六三万三四〇〇円×二七%×二〇(ホフマン係数)

(三) 慰藉料 金四五〇万円

原告は前記後遺症により、クラスメートから跛つこといわれて仲間はずれにされ現在登校を拒否するような状態に陥つており、また、右後遺症は生涯続き、種々な制約を受け、その肉体的、精神的苦痛に対する慰藉料は、金四五〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、その費用として金一〇〇万円の支払を約した。

4  損害の填補

原告は、本件事故により、自動車損害賠償責任保険から金四四八万九七二三円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告に対し、金二〇七〇万三四三七円と内金一九七〇万三四三七円に対する本件事故の後である昭和五七年一〇月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  請求原因3につき、原告が事故当時満一〇歳であつたことは認め、その余は争う。

3  請求原因4は認める。

三  抗弁(過失相殺)

原告は、駐車中の車両のかげから突然道路の横断を開始し、走行中の被告運転車両の前面に飛び出してきたものであるから重大な過失がある。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び責任原因

請求原因1、2の各事実については当事者間に争いがない。

二  損害

各成立の真正に争いのない甲第二号証の一、二、原本の存在及び成立の真正に争いのない甲第三号証によれば、原告は、昭和四六年七月一五日生の男子で、本件事故のため右股関節脱臼、右大腿骨々折の傷害を受け、事故当日の昭和五四年一〇月二五日から同五五年一月二三日までの九一日間札幌市の近藤整形外科医院に入院し、同五五年一月二五日から同五六年八月一七日までの間同病院に通院して治療を受けたが、右大腿部の屈曲変形による右下肢の三センチメートル短縮により跛行の後遺症が残つたことの各事実が認められ、これによる原告の損害は以下のとおり判断される。

1  入院諸雑費 金五万四六〇〇円

前掲の証拠によれば、原告は、右入院期間中、一日につき金六〇〇円を下らない諸雑費の支出を余儀なくされたものと推認される。

2  逸失利益 金一三〇八万〇二四〇円

原告の右後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺症害等級表一〇級八号に該当するものであり、原告は、稼働可能と考えられる満一八歳から満六七歳の四九年間を通じて、その労働能力を一八パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、昭和五六年度の賃金センサスによれば、産業計・企業規模計、学歴計の男子労働者の年間平均給与額は金三六三万三四〇〇円であることが認められるので、原告が本件事故により右障害を負わなければ、右稼働可能な四九年間を通じて毎年右平均額の収入を得ることができたものと推認され、これを基礎に、右労働能力喪失割合を乗じ、同額から新ホフマン方式により中間利息を控除して、右四九年間の逸失利益の本件事故当時における現価を求めると、その金額は金一三〇八万〇二四〇円となる。

3  慰藉料 金四五〇万円

前記認定の傷害の程度、入通院期間、後遺症の程度、原告の年齢その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は金四五〇万円が相当である。

4  過失相殺

前掲甲第二号証の一、各成立の真正に争いのない甲第一号証の一ないし五、第二号証の三、四、被告本人尋問の結果によれば、(1)本件事故現場の道路は、商店街を東西に貫通する幅員八メートルの歩車道の区別のある直線アスフアルト道路で、人通りは多く、毎時二〇キロメートルの速度規制がなされていたこと、(2)被告は、右道路のほぼ中央部を東方に毎時約四〇キロメートルの速度で加害車両を運転していたところ、約三二メートル前方北側(進向方向左側)の歩道に沿つて駐車してある普通貨物自動車(ライトバン)に気付いたが、そのままの速度で約二五メートル進行すると、ライトバンの前方約一・三メートルの地点に南側歩道に向かつて道路を横断している原告を発見し、慌てて急制動の措置を講じたが、間に合わず、道路のほぼ中央部分で加害車両の前部を原告に衝突させたこと、(3)原告は、ライトバンの約一・三メートル前方の北側歩道上から道路を横断すべく南側歩道に向かつたものであるが、側近に駐車していたライトバンのため進行してくる加害車両につき充分な注意を怠たつたまま車道上に飛び出したことの各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故の発生には道路を横断するにあたつて充分な安全の確認を欠いたまま車道に飛び出した原告の不注意がその一因をなしていることは明らかであるが、本来、本件事故道路は人通りの多い商店街道路のため横断歩行者の通行には充分な注意を払うことが要求され、しかも、被告の走行時においては、走行車線側の歩道沿いにライトバンが駐車しており同車両の前方側近より横断してくる歩行者を発見しにくい状況にあつたから、被告としては、ライトバン付近を通過するにあたつて減速等の方法により歩行者の横断に格別の注意を払う必要があつたにもかかわらず、殆んどこれに意を配ることなく、規制速度の約二倍にあたる毎時約四〇キロメートルの速度で加害車両を運転していたもので、その過失は重大であり、右過失に対比しての原告の本件事故への過失割合はせいぜい一割五分をもつて相当と判断する。

そうすると、前記損害の合計額は金一四九八万九六一四円となる。

三  損害の填補

原告が、本件事故につき、自動車損害賠償責任保険から金四四八万九七二三円の支払を受けたことについては当事者間に争いがないから、右金額を前記損害額から控除すると、金一〇四九万九八九一円となる。

四  弁護士費用

原告が、原告訴訟代理人に本件を委任したことは弁論の全趣旨により明らかなところ、本件事案の内容、認容額等その他諸般の事情に照らし、被告に賠償を命ずべき弁護士費用としては金一〇〇万円をもつて相当とする。

五  そうすると、原告の本訴請求は、被告に対し金一一四九万九八九一円と内金一〇四九万九八九一円に対する本件事故の後である昭和五七年一〇月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 光前光一)

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